(韓国週刊誌ハンギョレ21 11月30日(金)第87号)
http://h21.hani.co.kr/section-021106000/2007/11/021106000200711290687041.html
参与政府(盧武鉉)とサムソンの、ベタベタした5年
ノ(盧)大統領とイ・ハクス室長の、高校の先・後輩の、参謀となった一部が、サムソンと緊密な関係、主要政策は、サムソンの思い通り有利に
キム・ヨンベ記者
参与政府草創期の青瓦台(大統領府)周辺では、‘江原道 三隣邦’の話が退屈せぬよう広がった。江原道生まれでならんで、秘書官に上った官僚出身のK氏、386運動圏のO氏、言論人・党僚出身T氏が、大統領の目と耳 を引き付けて‘江原道の力’を発揮していると言う、そしり(悪口)であった。
これら三人を一つの塊に束ねる環は、出身地と同時に‘サムソングループ’だった。サムソンと密接な関係を結んで、サムソンに物心両面で支援を受けているという疑惑に包まれたこれら三人を通じて、サムソンのイデオロギーが青瓦台に浸透し参与政府の政策に採択された。
金産法(訳注・金融産業法)・公正取引法の後退
参与政府が他の財閥より、唯一サムソンと緊密な関係に有るという疑惑のきっかけは、この他にも多い。出帆の初年、チン・デジェ、サムソン電子社長を政府通信部長官に任命して、ホン・ソクヒョン<中央日報>会長を駐米大使に抜擢したことは、明白な例に過ぎない。2005年には、イ・オノ、サムソン経済研究所専務を国家情報院最高情報責任者に迎え入れて、人目を引いた。民間部門の‘柔軟な頭脳’を借りて来るためだけだと、見ることには、度を越した重要なポストと思われ、かなりの擬懼(ぎく)心を残した場面だ。
ノ・ムヒョン大統領とサムソンの公式的な接点は、1999年頃から見出される。
ノ大統領は当時、新政治国民会議・東南地域発展特委・委員長として、‘サムソン自動車、生きる運動’を展開した。人権弁護士として主に活動した、ノ(盧)大統領が財界と本格的に関係を結んだ端緒だった。ノ(盧)大統領とサムソンを結ぶ人的な環としては、サムソンの2人士、イ・ハクス戦略企画室長が主に、数えられる。ノ・大統領のプサン3高の1年先輩である、イ・シルジャンは、1999年当時、サムソン構造調整本部長としてサムソン車の売却処理を引き受けていた。ノ・大統領とイ・シルジャンの間に高等学校の先・後輩以上の因縁が芽生えたのがこの時だという。
ノ・ムヒョン政府出帆の直前である2003年2月、大統領職引継ぎ委員会にサムソン経済研究所の‘国政の課題と国家の運命に関するアジェンダ(訳注・議題)’と言う400余㌻の分量の厖大な報告書が提出され、参与政府の国政方向に少なくない影響を及ぼしたと言う事実は、そこそこに、知られている。サムソンと参与政府が蜜月関係を結んでいるという次元を越え、‘サムソンが指し示す方向に国政が転がっていく’と言う分析を生んだ糸口だった。ノ大統領が就任6ヶ月目の2003年8・15、光復節祝辞で提議した‘2万㌦論’や、参与政府の産業政策の主要な幹として提示された、産業クラスタ(集積団地)助成方案は、やはり、サムソングループで先導的に提議したスローガンだった。特に2万㌦論の場合、参与政府の当初の国政哲学とは正反対の方向に思われて、後まで相当に波長を引き起こした。
サムソン研究所の報告書や、2万㌦論、産業クラスタ推進の事例で、すでにその芽を出した様に、‘金融産業の構造改善に関する法’(金産法)や公正取引法改正のような太目太目の、サムソン関連の争点はほとんど例外なく、サムソンの思い通りに料理される様相だった。
キム・デジュン(金大中)政府の時の2001年、財閥系列の金融社の系列社の株に対して、特殊関係に有る持分を含んで、30㌫まで議決権を認めてやるように切り変えたことがあった。1986年から維持されてきた金融と産業の分離の原則
に破裂球をつくっておいた改悪の措置だった。参与政府は当初これを矯正するという方針を立てたが、サムソン側の圧迫に押されてうやむやにされた。サムソン総帥一家に、これは少ない持分でグループを支配できる梃子を握らせたものだ。金産法(24条)改正、更に財閥系列金融社の、同一系列社の持ち分の所有を、5㌫以内に制限しようとした当初の改革案から後退し、‘5㌫超過の持分の議決権だけ制限して、保有は許容’するまでにした。さらに、サムソンから圧迫を受けた痕跡を残した財政経済部の強力な要求に従い、‘附則’条項では、改正案の施行の前に取得した5㌫超過持分は、問題としない事にした。サムソン系列金融社の、持分の超過保有は過去にしたものだとして、法の違反を黙認すると言う、いいかげんな改正だった。
‘サムソン独裁’の状態、まで来ている
ソン・テス、韓国労働教育院教授は11月23日‘民主化のための全国教授協議会’(民教協)が主催した、サムソン関連討論会でテーマ発表を通して“他の企業がルール(法と制度、規則)の受容者である反面、サムソンは、自ら‘ルールメイカー’になろうとした”と分析した。“企業が経済的利益達成のために努力するのは当然であって非難することではない。しかし、サムソンはこれに終わらずに、自身の利益を貫徹する為に既存ルールをやぶっても、制裁を回避し、一歩進んで既存のルールを自身の思うままに取り替えようとした。”ソン教授は、“サムソンのこんな行動は、民主主義の基本秩序を全面に壊す体制の危機要因”であると、付け加えた。
キム・ヨンチョル(金勇澈)弁護士(前サムソン構造調整本部法務チーム長)の続いての良心の告白で、すでに赤裸々に露見したように、サムソンがルールメイカーに位置づけられたメカニズムは、不法ロビーとして、官僚集団と検察を初めとする国家機構を腐敗させる方式で現れている。青瓦台民政首席室法務秘書官を過ごしたイ・ヨンチョル弁護士が、11月19日‘サムソンの、イ・ゴンヒ(李健熙-訳注1)の不法究明国民運動’を通して暴露した内容は、キム・ヨンチョル弁護士の良心告白をそのまま支えとして、衝撃を加えた。2004年1月元旦頃、サムソン側から500万ウヲンを受けて、返したことがあったと言うこの弁護士の証言は、‘サムソングループが名節時(訳注―2)に政・関係、また検察幹部などに500万~2千万ウオンを、渡した’という、キム弁護士の告白とコインの裏表を成している。キム弁護士の主張が、事実であることを立証することであるだけでなく、検察、財政経済部、国税庁、金融監督院、を越えて青瓦台まで、サムソンの管理対象に含まれている現実を、今さらに実感することになったのだ。
チョン・ソンイン、ホンイク大(弘益大)教授は、サムソンの賄賂提供の行動が通常的ビジネス過程で展開するものとは、明らかに区別されると語った。“普通人々は、‘事業をしてみれば、みんな、そんなに賄賂を出してするものか?’と言うが、サムソンのロビー(活動)は、それと次元が違う。認・許可を、受けて出す為‘裏口’、に、賄賂を出す行為は、どんな社会でもみんなある。ところが、今提起された問題のロビー(活動)は、サムソン全社が、認・許可を取る為に事業上‘必要悪’としてしたものではない。これは完全に、支配株主(イ・ゴンヒ会長一家)の私的利益(不法経営権の継承貫徹)のために、会社が‘法律的危険’を甘受し、展開したことだ。”チョン教授は、“ロビー(活動)の対象が、経済官僚だけではなく青瓦台にまで至ったという点で、企業が生きていく為にしたことと見るのは難しい。”と分析した。企業自ら、経済権力を超えて、政治権力の様相を帯びて、民主主義の危機を招来する‘サムソン独裁’の境界に来ているということだ。
キム・ヨンチョル弁護士の良心の告白にひき続いた、イ・ヨンチョル弁護士の暴露の後、公的機構が見せた出鱈目な態度は、わが社会が今や、‘サムソン共和国’を超え‘サムソン帝國’による‘サムソン独裁’の時代に踏み込んだと言う診断を、聞き流すことは出来なくなった。検察は、口座番号まで付け加わって提示されているサムソンの機密費の、捻出・管理の疑惑に何も動かないが、市民団体の告発と、一部賄賂検事らのリスト公開後には、仕方なく捜査に入った。機密費を隠匿した借名(他人名義)口座の開設先であるウリ銀行に対し、金監院(金融監督院)が、金融実名制違反の嫌疑を調査すると乗り出た時点は、キム・ヨンチョル弁護士の告白の後、およそ3週間が過ぎていた。青瓦台の動きは、そのうえに盛んな疑惑を生んだ。サムソン機密費などに対する国会側の特検の推進に、青瓦台は‘公職者腐敗捜査処設置法’と連繋し通過させない場合、拒否するとの意思を明らかにした。具体的な物証まで付け加えたイ・ヨンチョル弁護士の暴露内容に対する検察の捜査が、広がらないのが当然に思われるわが社会の実情、さらに、公式の諸機構の無力であることと違いの無いサムソン独裁時代の腐敗不感症を、反映している。
どうして、Ⅹファイル事件を隠してしまったか
わが社会の経済権力である諸財閥と、一定の距離を維持することで姿を見せた参与政府で、むしろ、もっと甚だしい癒着の様相、或いは経済権力の政治権力化の様相が、現れた理由は何であるか?
チョン・テイン、前・青瓦台国民経済秘書官は、韓_米自由貿易協定(FTA)の物議を触発させた昨年4月の、インターネット媒体<レデアン>インタビューで、大統領の側近、A議員を故吏にした参与政府と、サムソンの密着関係を問題としながら、参謀陣の力量不足を原因と見なしたことがある。
“(A議員のような)‘386’たちが運動をしたし、正義感はあるが、分かるものが無く専門性が無い。国会に進出しなければ苦しくなることも無い。”青瓦台の参謀陣は、財経部を中心に一つの官僚組織と癒着する以外になく、その官僚組織は、つぎに紐で掌握されているという話だった。“サムソンが、財経部の政策方案を作ってくれる場合まである。すでに発覚した様に、金産法改定案は、‘金&張法律事務所’と、サムソン側で作ってくれたものだ”
同じような分析が、民主労働党機関紙である、週間<進歩政治>(11月7日)に載せられた、キム・サンジョ・経済改革連帯所長の文章でも見出される。キム・所長は、財閥問題を初めとする経済分野の失敗は、ノ大統領の‘敗北主義’から始まったと解析する。サムソンに代表される財閥の問題を、良く分からなくて不安へ逃げて、改革の換わりに妥協の道を歩んだというものだ。キム所長は、“‘Ⅹファイル事件’の時、イ・ゴンヒ会長を召還さえしないまま、‘歴史の教訓として第三者’であると、隠してしまった、ノ大統領の言及は、‘財閥との大恋情’が完成されたことを意味する。”と分析した。ノ大統領は、敗北主義に沿った内部改革の失敗を、一挙に挽回しようとして、対外開放という衝撃療法で突破する‘冒険主義’の選択をすることとなった。その典型的な事例が韓_米・FTAの推進だったと、キム所長は付け加えた。
キム・キイウオン・韓国放送通信大・教授(経済学)は、ノ大統領が、<チョソンイルボ(朝鮮日報)>の力を過小評価した反面、<チュンアンイルボ(中央日報)>まで併合するサムソングループの力は過大評価して、当選者(ノ大統領のこと)の時期から萎縮していたように見える”と解釈する。大選(大統領選挙)過程で金を受けた原罪で足首が捉まり、財閥改革に不明瞭な姿勢を取ったことを切り抜け、‘サムソンに手をつければ国が揺らぐ’と言うイデオロギーに踏みつけられサムソンの間違いを正そうとする考えさえ、示すことが出来なかったという事だ。キム教授は、“サムソンの内部的には総師の独裁体制が席を掴んでいるし、外部的にはサムソンが国民経済、ひいては国全体を独裁的に支配する‘二重独裁体制’”と、わが社会を規定して“機密費波紋のあとの解明する様相を見ると、サムソン構成員の全体、さらに幹部らが権力の味に中毒された姿まで覗われる”と語った。
検察と特検が終わらせることが出来るのか
天主教正義具現全国司祭団は、10月29日、初めての記者会見時、すでにこんな本質的な問題を指摘していた。司祭団は、当時声明書で“むかし、軍部独裁政権の独善と傲慢を、今日では、あっけなく資本と企業が勝って気ままにしている”“第二の民主主義運動、即ち経済正義の民主主義運動を拡げる時”だと明らかにした。新しい独裁権力の時代という分析まで生まれる程度に、深刻になった‘サムソン・スキャンダル”の暗い影を、検察や特検の捜査で取り払う事が出来るのか?!(訳 柴野貞夫)
解説
11月27日、韓国国会は、サムソングループによる政・官・司法のみならず、青瓦台まで巻き込んでいる巨大なロビー活動疑惑を、捜査する為の「特別検察官」を任命する法律を可決した。当初、拒否権発動をかんがえていたノ・ムヒョン(盧武鉉)大統領は、世論の圧力の前にその行使を断念した。
サムソン(三星)グループは、韓国最大の企業グループで、総資産260兆ウオン(30兆円)。2006年、グループ総売り上げ17兆円、韓国対外輸出の25㌫を占め、国家財政の税収の8㌫を納める、韓国資本主義の中核的存在である。
韓国株式市場の、発行株式の時価総額の四分の一を占めるサムソングループは、この絶大な経済的権力を使って、国家権力を自己の道具として利用してきたという告発が、その内部からの具体的裏付け資料によって行われた。
キム・ヨンチョル弁護士は10月27日、その内部資料を検察に提出し、サムソングループ総師・イ・ゴンヒは、出国禁止措置を取られた。国会による「特検」の任命によって、その内部資料が示す、政界、官界、司法のみならず、言論界にまで至るロビー活動の実態が、230億円といわれる裏金の行方と人名リストによって明らかになるかどうかは、まだ、不透明である。ロビー活動の対象が、イム・チェジン(林采珍)検察総長を初めとする検察幹部にも向けられて来たからである。
しかし、更に問題なのは、1987年6月29日、40年続いた軍事独裁の敗北宣言から10年後、キム・デジュンから引き継がれた、民主化と民衆参与の政府を自称する盧武鉉政権(青瓦台)が、政策的にも人的にもサムソンの影響を深く受容してきたことが明らかになりつつある事である。サムソンが韓国経済の最大企業であると言う事は、同時に、韓国労働者階級を日常的に支配する、最大の経営者グループがサムソンだと言うことだ。しかしサムソングループは、韓国労働者の基本的人権を一貫して否定してきた札付き財閥である。傘下企業の労働組合組織の結成を徹底的に妨害し、「無労組経営」の方針によって数々の人権侵害事件を引き起こしている。経済的要求と労働者の基本権に関わる労働運動さえも、刑事処罰の対象とする現行の韓国労働法にも助けられ、労働者の悲惨な犠牲の上に築かれた「サムソン帝国」である。
ノ・ムヒョン政権の5年間が、新自由主義に基づく資本の国家戦略から一歩も出ることなく、非正規職労働者180万人の増加を許し、労働人口の50㌫をこえた無権利状態の労働者の立場より、資本家階級の利害に左右されてきたというのであれば、民衆の参与政権ではありえない。ノ・ムヒョンと「無労組経営」のサムソンとの「べたべたした5年」は、韓半島と極東平和への貢献を差し引いても、韓国の民衆の利益を大きく損ねたというべきだ。
12月19日の大統領選挙は、民衆と労働者階級の利害の擁護者こそが選ばれなければならない。唯一の、韓国労働者の党である民主労働党の前進を期待したい。
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